大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成8年(ネ)3595号 判決

主文

一  原判決を取り消す。

二  控訴人の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

1 原判決を取り消す。

2 本件を原審に差し戻す。

二  被控訴人ら

控訴棄却

第二  事案の概要

本件事案の概要は、原判決の事実及び理由中の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

第三  当裁判所の判断

一  本件訴えは、マンションの区分所有者全員によって構成された管理組合である控訴人を原告とし、本件建物を建築した被控訴人三井建設及び本件建物の区分所有部分を販売した被控訴人三井不動産を被告として、控訴人が被控訴人らに対し、被控訴人らの行為によって本件建物の共用部分に瑕疵が生じ、その補修に要する費用相当額の損害を受けたとして不法行為による損害賠償を請求するものである。

原判決は、建物の区分所有等に関する法律二六条四項により本件について当事者適格を有する旨の控訴人の主張を斥けて、本件訴えを却下しているので検討するに、同法二六条四項の規定により訴訟担当が許されるのは、同法の規定する管理者に限られるから、管理組合である控訴人がその名において同法二六条四項の管理者の権限を行使することが許されないことは、原判決第三、二に説示のとおりである(なお、本件損害賠償請求権を行使することが管理者の権限に属しないことも、右説示のとおりである。)。

しかし、控訴人は、本件損害賠償請求権は控訴人の組合員である区分所有者全員に総有的に帰属するとも主張しているところ、本件訴訟において権利能力なき社団である控訴人(控訴人が権利能力なき社団として当事者能力を有することは、原判決第三、一に説示のとおりである。ただし、原判決書五枚目表七行目の「現に、平成六年四月に」を削る。)が自ら原告となるのが相当かどうかは、控訴人の主張する本件損害賠償請求権が控訴人の組合員である区分所有者全員に総有的に帰属するかどうかという本件訴訟における本案の問題にほかならず、本件訴訟において、控訴人は本件損害賠償請求権は控訴人の組合員である区分所有者全員に総有的に帰属すると主張しているのであるから、その主張に理由があるか否かにかかわらず、控訴人には本件訴訟の当事者適格はあるというべきであり、ただ控訴人の右主張が理由のない場合には、控訴人の請求は棄却すべきものということになるというべきである。

控訴人の主張は、被控訴人らの行為により、本件建物の共用部分にひび割れ等の瑕疵が生じたことによる損害の賠償を求めるというにあるから、本件損害賠償請求権は、本件建物の共用部分の共有者である各区分所有者に帰属するのであり、しかも、右損害賠償請求権は可分債権であるから、各区分所有者にその共有持分割合に従って分割して帰属するものと解するのが相当であって、本件損害賠償請求権が控訴人の組合員である区分所有者全員に総有的に帰属する旨の控訴人の前記主張は採用し難い。したがって、控訴人の請求は理由がなく、棄却すべきものである。

原判決は、本件損害賠償請求権が控訴人の組合員である区分所有者全員に総有的に帰属する旨の控訴人の前記主張は理由がない旨をその理由中で説示しているところ、本件のように第一審裁判所が、その判決理由中において説示した理由からすると請求棄却の判決をすべきであったにもかかわらず、訴えを却下する判決をした場合には、第一審裁判所において控訴人の請求について実質的な審理判断をしているものというべきであって、事件を第一審裁判所に差し戻さなくても当事者の審級の利益を失わせることはないから、控訴審裁判所において自ら直接請求の当否について判断をすることができると解するのが相当である(最高裁判所昭和五七年(オ)第一三九四号昭和五八年三月三一日第一小法廷判決参照)。

二  よって、本件訴えを却下した原判決は失当であるからこれを取り消すこととするが、控訴人の本訴請求は理由のないことが明らかであるからいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川英明 裁判官 太田幸夫 裁判官 下田文男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例